「K'FESTA.6」3.12(日)代々木<特別コラム>K-1で実現した日本人重量級頂上決戦、そして令和の異種格闘技戦 京太郎と石井慧の生きざまを見届けよ
京太郎と石井慧――。2人が、3月12日(日)に開催される「K-1 WORLD GP 2023 JAPAN ~K'FESTA.6~」(東京・国立代々木競技場 第一体育館)で対戦することは、避けられない運命だったのかもしれない。
対戦カード発表会見で石井は、「勝敗を卓越した試合ができるかなと思います」と予言した。また京太郎も「2人がこれまでどんな思いで歩んできたのか、分かってもらえればと思います」と続けた。
2人は同級生で、京太郎の生年月日は1986年6月23日、石井は1986年12月19日、ともに大阪出身だ。大きく違ったのは、京太郎が空手、石井が柔道の道へ進んだこと。京太郎は立ち技の最高峰「K-1」を選び、石井はスポーツの最高峰「オリンピック」で柔道を極め、のちに総合格闘技(MMA)のトップを目指すことを選択した。
石井は幼少の頃から柔道を習い、2008年に行われた「北京オリンピック」柔道100kg超級で優勝して金メダルを獲得、その後はプロの総合格闘家へ転向している。石井の総合格闘技の変遷は長くなるため割愛するが、DREAM、IGF、INOKI GENOME、RIZIN、ベラトール、HEATなど多くの団体・大会で活躍場を広げてきた。
このまま石井はMMAでトップを目指していくのかと思われたが、2021年にK-1へ電撃参戦し、愛鷹亮、RUI、実方宏介を破り3連勝。さらにボクシングも2試合行い、大きな話題になった。
一方の京太郎は、幼少時期に魚本流空手を習い、グローブ使用の新空手の大会(K-2)で優勝、その後にヘビー級中心の旧K-1においてピーター・アーツをKOして日本人初のK-1ヘビー級王者となった。旧K-1が休止になると、ボクシングに転向。23戦21勝2敗の戦績を残し、日本ヘビー級チャンピオンにもなっている。
そして2021年、京太郎は約11年ぶりにK-1へ復帰すると実方宏介からKO勝ちを収め、あらためて存在をアピールすることに成功した。
石井は柔道→MMA→K-1→ボクシング→K-1、京太郎は空手→K-1→ボクシング→K-1と、後半は2人がまるで共鳴しているかのごとく変遷が重なり合ってきているのが分かる。格闘技ブームのど真ん中に身を置き、ブームの陰りとともにかつてのライバルたちが次々とグローブを置く中、ここまで生き延びてきた。彼らは、どんな景色を見てきたのだろうか。
公開練習で京太郎は石井戦にかける思いを聞かれると、「この後の人生も考える中で、僕もいい歳になってきています。石井選手でなければ試合を断ったかもしれない。寝ている中で急に叩き起こされたような感覚はありますけど、よくここまで体が戻ったなと思います。よく作れたなと。それは石井選手だから作れたかなと思います。気持ち的にも」と答えた。1年ぶりの試合は相手が石井だから受け、そして厳しいトレーニングを乗り越えることができたのだという。
同様に石井も今回の京太郎戦は、「相手が京太郎選手なので緊張もしますし、楽しみだなっていうのもあります。自分の中では、とても思い入れのある選手。勝敗以上のものを見せたいという気持ちと、何をしても勝ちたいという想いもある。今回は心で戦いたいと思います」と特別な試合であることを伝えている。
さらに京太郎は石井に対して、「K-1のリングに来たのも、ボクシングデビューしたのも僕とやるためだと思っているんで、そう考えるとよくここまで来たなと思うし、それだったら迎え撃たなきゃダメかなという気がします」と自分の後を追ってきたような感覚があると明かす。
おそらく石井は、求道者のように『最強』を目指す旅に出ている中で、たまたま自分に足りない要素が、『ボクシング』や『K-1』の打撃だったのかもしれない。だが、いつもその延長線上に京太郎がいたのは間違いない。
2人は1年半ほど前に一緒に練習をしたそうだが、実は2014年にもボクシングのスパーリングをしている。この時は石井が京太郎とのスパーリングを熱望して実現したものだが、カウンターのパンチを当てられると「自信になった部分はありませんでした。もっとジャブを使って、リズムを作りたかった」と京太郎のパンチのうまさに舌を巻いた。
あれから9年の月日が流れ、まさかK-1のリングで対戦することになるとは当時の2人は思ってもいなかったことだろう。
京太郎は対戦カード発表会見で空手着姿になり、「今回の試合は、空手vs.柔道だと思っています」と意気込みを語った。横に並んだ石井が「柔道着を持ってくればよかった」と後悔する場面があり、2人は顔を見合わせて苦笑した。
空手vs.柔道は、昭和で言うところの異種格闘技戦。K-1が創設されて今年で30周年になるが、K-1の“K”は、空手、拳法、カンフー、キックボクシングなどの頭文字から取り、「どの格闘技が一番強いのか?」が原点となっている。草創期は、故アンディ・フグやピーター・アーツ、アーネスト・ホーストが主役の空手とキックボクシングの対抗戦が頻繁に行われたものだ。
それを考えると古き良き時代の残されたカードが、今回の京太郎と石井慧の「空手vs.柔道」対決なのかもしれない。
歴史を感じる2人の試合は、単なる勝敗だけではなく、彼らの生き様が色濃く見える戦いに発展しそうだ。