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「K-1 WORLD GP」12.3大阪<振り返りコラム>ラテスクのパワーに驚愕、ジョムトーンは異次元、ヨーシラーの技術は超一流…佐藤嘉洋さんが出場外国人選手を総括

 12月3日(土)エディオンアリーナ大阪で開催された「K-1 WORLD GP 2022 JAPAN~初代バンタム級王座決定トーナメント~」。

 今大会には総勢10名の外国人選手が来日する大会となり、大会当日に解説を務める佐藤嘉洋さんに事前に試合映像をチェックしていただき「ラテスクがサッタリ喰いの予感、KANAはオロールに苦戦?、軍司vsジュングァンは名勝負必至、初代バンタム級王座決定トーナメント=『K-1 WORLD MAX 2002』説…」(https://www.k-1.co.jp/news/37651/)などを語っていただいた。

 では実際に、リングサイドの解説席から見た外国人選手たちの実力はどうだったのか? 改めて大会後に佐藤さんに話を聞いた。
【1】ラテスクのパワーには驚き!ただサッタリも再戦すればチャンスあり

 今大会で最もインパクトを残した外国人はルーマニア出身・20歳の“ゴールデンボーイ”ステファン・ラテスクで異論はないだろう。ラテスクはプロ20連勝中のマハムード・サッタリを豪快にKOする番狂わせを起こし、佐藤さんの「ラテスクは大物喰いする可能性がある」が的中した形だ。佐藤さんは実際にラテスクの試合を見て「驚いた」という。

「正直、驚きましたよ。ラテスクが最初から勢いで行ったので『途中でスタミナ切れを起こすんじゃないか?』と思って。でも途中でお互いに見合う場面があったんですよ。あれでラテスクの勝率は一気に上がったと思います」

 序盤から持ち前の圧力で前に出るラテスクに対して、サッタリは下がりながら応戦し、多少見合う時間も作りつつ、試合を組み立てていった。しかし佐藤さんは1Rからもっと積極的に攻撃してもよかったのでは、と指摘する。

「(積極的にいかなかった)サッタリの気持ちも分かります。未知の相手なので、どんな選手なのかを見たいし、サッタリ自身の身体能力も高いので1Rを見たのは悪くはないんです。ただ、僕が現役時代に教えられた『名古屋JKファクトリー式』だと『自分より強い相手と戦う時は最初から削りにいけ』なんです。もしサッタリが1Rから削っていく作戦だったら、逆にサッタリの勝率が上がったかもしれないです」

 またラテスクの「ひたすら前に出る」戦法は、攻撃だけではなく、ディフェンス面でも有効なのだという。

「止まっている相手なら、放った攻撃が当たると100%の威力が出ます。でも、相手に1センチでも前に出てこられると、攻撃のパワーってものすごく軽減します。ラテスクは常に前に出て、相手の攻撃のパワーを軽減させる戦い方をしていて、最初に試合映像を見た時に『これをサッタリ相手に出来るのか?』と思ったんですけど、出来ましたね(笑)。この勝利は彼にとってキーポイントになるから、これから一気に強くなるんじゃないですか」

 サッタリvsラテスクのクルーザー級(90kg以下)対決は「昔のK-1ヘビー級のような大迫力だった」と好評を得たが、佐藤さんも解説席で「昔のK-1ヘビー級だ」と感じていた。

「『これが重量級やな』って思いました。あの迫力、あのパワーのぶつかり合いはK-1 WORLD MAXが一番盛り上がった時にもなかったもので、重量級ならではなんですよね。ラテスクの筋肉で盛り上がった背中なんか、日本人の常識からすると考えられない背中ですよ。やっぱりテクニックとパワーの境界線は70キロで、70キロはテクニックとパワーの比重が50:50という奇跡的な階級なんです(笑)。70キロより重い重量級だとテクニックよりもパワーに比重が傾いていくなと、ラテスクとサッタリの試合を見ていて思いました」

 20歳のラテスクが31歳のサッタリの連勝を止めて「新時代の到来」かと思いきや、佐藤さんは「それはまだ早いです」という。

「ラテスクは、タイプ的に常勝タイプではないのかな、という感じがしますね。もし、サッタリがラテスクの左フックに2・3発カウンターを合わせたらまったく違う展開になったと思いますし、サッタリが実力的に落ちているわけではないので、ぜひリマッチを見てみたいですね」

 クルーザー級に生まれたニュースターのラテスク、そして初の敗北を味わったサッタリにも“リベンジ”という新たなストーリーが生まれた。今後のクルーザー級戦線からますます目が離せない。
【2】ジョムトーンは異次元の選手、ただ和島大海なら対抗できる

 K-1参戦2戦目のジョムトーン・ストライカージムも森田奈男樹をパンチでKOし、インパクトを残した。ジョムトーンは14歳でムエタイの最高峰ラジャダムナンスタジアム王者になったのを皮切りに、ムエタイやボクシングで数々の実績を残す「ムエタイの生ける伝説」。ただし、対戦相手の森田も空手で輝かしい実績があり、佐藤さんも「期待できるかもしれない」と思っていたという。実際に、序盤、森田のインローでジョムトーンがバランスを崩すシーンがあった。

「ムエタイと空手では体の動かし方が違うんですよ。空手は足先で、脛から下をバチンと弾く。とても痛い蹴りです。ムエタイはムチのようにしならせるので、ハイキックも首にからまって大木が崩れていく重い蹴りです。だから、さすがのジョムトーンも、最初は蹴りのタイミングがムエタイと違う空手の蹴りに戸惑ったんじゃないですか。森田選手は空手の実績がある上に所属のエイワスポーツジムでムエタイも教わってるはずだから、僕も期待してて『アップセットがあるかもしれない』と思ってました。ただ、ジョムトーンが強すぎましたね(苦笑)」

 ジョムトーンはすぐに体勢を立て直すと、森田にパンチのカウンターを浴びせて、1Rに2度ダウンを奪い、2R早々にも左ストレートでダウンを奪い、レフェリーが試合を止めた。

「ジョムトーンは、ボクシングでも内山高志さんと世界タイトルマッチをやるまでになったんですよね。でもパンチはボクシングっぽい打ち方ではなくて『ジョムトーン式』というか、独特なんですよ。彼は異次元の選手ですよね。(具体的には)彼のパンチは一切の無駄がないです。タイミングが抜群なんですよ。技に重さや威力はあるんだけど、そこまで重視されるものではない。でも相手が見えてないところにパンチを打てば軽く倒せることをジョムトーンはよく知っていて、体が勝手に動くんでしょうね」

 リングサイドにはK-1スーパー・ウェルター級王者の和島大海がいて、試合を見守っていた。K-1での過去2戦で圧倒的な強さを見せたジョムトーンだが、佐藤さんは「和島選手ならジョムトーンに対抗できる」と断言する。

「和島選手は絶対にジョムトーンとやった方がいいです。僕らの世代は『打倒ムエタイ』を掲げて戦ってきたから、そこに強いタイ人がいるなら戦うしかないんですけど、和島選手なら対抗できると思います。まずジョムトーンは体格的に70キロの選手ではないんですよ。逆に和島選手は骨格がデカくて、体のパワーは相当強いですし、最近はより強くなってると感じます。テクニックではもちろんジョムトーンですけど、純粋な70キロの選手としてパワーは足りないと僕は思うので、和島選手ならチャンスがあると思います。あと、僕がぜひ見たいカードはジョムトーンと野杁正明選手! 今は階級が違いますが、これは絶対に面白いカードなので、ぜひ実現してほしいです」

 3階級制覇を掲げるジョムトーンは、スーパー・ウェルター級で和島を倒せば、次はウェルター級の野杁をターゲットにするはず。果たして、和島vsジョムトーンは実現するのか。そしてその先の野杁vsジョムトーンはあるのか。その動向にも注目だ。
【3】ヨーシラーの技術は超一流!そのヨーシラーを1回戦で破っての黒田斗真の優勝は価値がある

 初代バンタム級王座決定トーナメントは1回戦すべて日本人が勝ち上がる結果になったが、タイのヨーシラー・チョー.ハーパヤックは黒田斗真と激闘を繰り広げた。大会前、佐藤さんはヨーシラーのミット蹴り映像を見ただけで「一流のムエタイ戦士」と断言していたが、その実力は期待にたがわぬものだった。

「やっぱりヨーシラーは本物でしたね。あのミドルは軸がまったくブレないし、見ていて勉強になりました。素晴らしい選手ですよ。ただ、僕は黒田斗真選手にびっくりしました。今まで日本人対決しか見てなかったので、テクニックでは正直ヨーシラー相手に厳しいかもと思ってたんですけど。黒田選手はヨーシラーのミドルに対して、スウェーで避けるだけじゃなくてローを返したんですよ。あれは本当に見切っていないと出来ない返し方。黒田選手のテクニックも本物だなと改めて思いました」

 1回戦でヨーシラーとの激闘を制した黒田は、決勝でも石井一成相手に延長まで戦って優勝を果たす。ヨーシラー戦で左腕を骨折しながらも、気合いで乗り切った。

「黒田選手のトーナメントに懸ける思いの強さですよね。ああいう黒田選手のようなアウトボクシングのネックって、相手に前に出られて体力を削られて、動きが鈍くなってしまうことも多いです。黒田選手はそれが一切なかったんです。2試合も延長まで戦っても最後までしっかり動けるって、相当な練習量をやってきたんだろうなと思いましたね」

 ヨーシラーは試合後「K-1が大好きなので、もっと自分のスタイルをK-1ルールに合わせて帰ってきたい」と話したが、佐藤さんは「このままでも十分戦える」という。

「僕は、特にスタイルを変える必要はないと思いますよ。もしワンマッチなら、あのミドルをバンバン蹴るスタイルで十分にポイントを取れると思いますし。ちなみに僕は、ヨーシラーは池田幸司選手とワンマッチをやっても面白いと思いますよ。今回のトーナメントでは『黒田斗真vsヨーシラー』がレベルが高くて飛び抜けてたと思いますし、1回戦が黒田選手でなければヨーシラーがミドルを武器にトーナメントを制していたかもしれない。だからこそ、そのヨーシラーを破っての黒田選手の優勝はとても価値あるものだと思いますし、ヨーシラーはぜひまたK-1で見たいです」
【4】ワン・ジュングァンのメンタルの強さは素晴らしかった

 大会前、軍司泰斗vsワン・ジュングァンを「もの凄く噛み合う」と見ていた佐藤さん。実際に、まばたき禁止の壮絶な打ち合いになった。判定で軍司が勝利したが、軍司の怒涛のラッシュに耐え抜き、終盤に反撃したワンのタフネスぶりには佐藤さんも驚かされたという。

「ワンは凄かったですね。中国の選手は元々の地力が強いイメージがあって、ワンもそんな感じがしていたんですけど、予想通りの素晴らしい試合でした。最近の中国人選手のレベルの上がり方は凄いと思いますけど、その中でもワンのメンタルの強さはトップクラス。どんなに軍司選手に打たれても、立ち向かっていく姿は万国共通で胸を打たれるものがありますね。もちろん、軍司選手は素晴らしかったですけど、ワンのパフォーマンスも本当に素晴らしくて、また見たいなと思いましたね」
【5】世界中に広がるネットワーク、数年後には世界の立ち技格闘家がK-1を目指す時代が来る?

 前回のコラムでも触れた通り、今年6月から本格的に海外勢の参戦が解禁され、各大会で「これは!」という未知の強豪がK-1のリングに立った。

 今大会でもK-1重量級で無類の強さを誇っていたサッタリをKOする初来日の外国人=ラテスクが現れ、大きなインパクトを残した。佐藤さんも大会を総括し「今回(印象に残ったのは)はラテスク。本当に彼を抜擢したK-1は素晴らしいですよ」と絶賛する。

「やはり初来日で、いきなりあのサッタリをKOしたラテスクが素晴らしかったです。『一切掴みは禁止』という今のK-1ルールは、世界的に見ても特殊なルールではあるので、慣れるまでに少し時間と経験が必要です。だから、ラテスクのように初のK-1ルールですぐに結果を出せる選手ばかりではないので、何度か日本に呼んであげるとよりK-1ルールに順応した状態で上がれますから、もっとよいパフォーマンスを見せられる選手が多くなると思います。

 大会の前にも言いましたけど、K-1が今、いろんな国から選手を呼んで、世界中にネットワークを広げていることはとてもいいことだと思いますし。このままいけば2、3年後には、世界中の立ち技格闘家が『日本のK-1を目指す』ということになってくると思うので、益々楽しみになってきましたね」

 来年3月12日の「K’FESTA.6」では世界中からどんな選手が集められるのか。今回のラテスクに続く強豪外国人の登場に注目だ!
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